デザインが伝統工芸にできること

2019.11.1

金沢にオフィスを構えたことで、伝統工芸に関わることが多くなりました。
工芸作品は華やかで、金沢のまちや生活に映えるものが多いのは事実です。
ただ、深く関われば関わるほど、その裏にある問題から目を背けることはできなくなりました。
目利きの減少、材料が入手しづらい、なども課題として挙げられますが、
大きくは①市場の縮小②後継者不足の2点になるのではないでしょうか。
これは、どの地域の伝統工芸産業においても直面している悩みだと思います。
加賀蒔絵作家の西村松逸さんに声をかけられたのは、金沢でのある会合の後でした。

加賀蒔絵は漆工芸に金や銀、貝殻等で絵模様を描いたもの。
3代藩主前田利常の時より確立されたと言われています。
利常は文化で藩の財政を支えようとしたため、職人が多く育ち、
今でも様々な伝統工芸の技が金沢には残っています。
加賀蒔絵の作家も何人かいることはいるのですが、その本質的な部分の継承が
途絶えようとしているというのです。
まずは、西村さんのご自宅にお邪魔して、その制作現場を見せてもらうことになりました。



西村さんの作業場

西村さんの家は祖父の代から続く作家の家系。
後を継ぐのが嫌で、建築家の道を目指すも、結局は家業に戻る決心を。
人間国宝の大場松魚さんにも弟子入りし、技術の習得には長い時間をかけました。
そんな西村さんだから、現状に対する危機感は誰よりも強いのでしょう。
実際に話を聴きながら仕事を拝見すると、
その工程の多さと、精緻な仕事ぶり、そして、使う道具の多彩さに驚くばかり。
しかも、その道具のほとんどは市販のものをそのまま使うことはせず、
自分なりに工夫して加工したり、他の道具を仕立てて使ったりしているのです。
特にヘラや砥石は材料から手に入れ、丁寧に成形して道具にしていました。
イメージを具現化し、細部にわたって神経が行き届いた仕事をするために自ら道具をつくり出す、
古来から続く職人のクリエイションの粋を目の当たりにしたのでした。



細い筆で一つ一つ丁寧に描く

別の日にカメラと三脚を持ち込み工程ごとに道具や材料を並べ、発掘物を記録するように撮影。
それらを並べてみると、気の遠くなるような手間や時間がビジュアルとして感じられ、
その仕事の高い解像度を支えるための工夫も見て取れるのです。
プロのカメラマンの視点でこの道具たちを丁寧に撮影してもらえば、
加賀蒔絵の深部まで伝わるものになると確信しました。

最終的には、金沢漆芸会のみなさんが持ち寄った道具や材料の撮影点数は150におよび、
そのうち80点を大小のパネルに出力して、
毎年10月に金沢しいのき迎賓館で開催されるKOGEIフェスタに展示。
さらに、2分48秒の映像も制作し、会場で流しました。

今回の試みによる成果は微々たるものでしょう。
課題はまだまだ山積みで、どこから手をつけていいか戸惑ってしまう事ばかり。
でも、そこで手をこまねいているよりは、まずは一歩踏み出してみる。
当事者ではないデザイナーができることは、
その一歩の積み重ねをお手伝いすることなのかもしれません。

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